戻るHOME


 12月の旅人






 兼高 かおる さん

  ジャーナリスト
  日本旅行作家協会副会長



INETはむしろ年配者の世界


 「プロバイダーっていうのはどんな役割をしているの?」
 「あら、どこを動かしたらそんなにスクロールすることになったの」
 「こんな膨大な情報を無料で流してどうしてビジネスになるの?」
 「セキュリティが課題っていうけど見通しは?」


 インターネット初体験。畳み掛けるように初級クラスの疑問から最新の話題まで、次々と質問が飛ぶ。さながら、インターネットを前にした言葉のサーフィンだ。
 もって生まれた旺盛な好奇心に、ジャーナリストとして世界を駆けめぐり慣らしてきたプロ魂が、何事も中途半端にしない切れ目のない質問となって飛び出してくるのだろう。 例によって言葉は穏やかだが、壷を外さないから無駄がなく進行が早い。
 忙しい時間を割いて1カ月先に決めたスケジュールがようやく実現して、パソコンの前に座ってもらうことになったが、インタビューする方が逆にしっかりと取材されることになった。



 31年間もの記録的な長寿番組となった「兼高かおる世界の旅」の舞台裏は、ブラウン管の優雅な世界と違い、1回1回が真剣勝負の世界だった。取材先捜しから確認、そして本番へと地球を飛び回ること30有余年。スタッフがあれこれとお膳立てをして主役は敷かれたレールの上を歩くだけという最近の番組作りと違い、主役がジャーナリストとしての力量と地べたを這うような苦労を要求された時代だった。あの故芥川隆行との軽快で優雅なブラウン管の中では決して伺い知ることができなかった世界だ。
 日本人の海外旅行は「兼高かおる世界の旅」と共にはじまり、成長してきた。そのブラウン管で「兼高かおる」の世界を見て海外旅行の夢を育んできた中高年組が、いま続々と憧れの旅に出始めている。「旅の国民栄誉賞」ものだ。
 パソコンさえまともに触ったのは初めてと断りながらも、休む間もなく今度は自らマウスの操作をはじめた。疲れを知らぬタフネスぶりは、いまなお健在である。知的好奇心が旺盛な証拠なのだろう。

 

 「キプロスはヨーロッパなのかアジアなのか」という兼高さんの疑問に答えるべく、インターネットの検索能力(?)を試すことになったが、こちらのナビゲーター能力ではヨーロッパとアジアの国々を引っぱり出して比較してみるのが精一杯、結局YAHOOでは、トルコがアジアでその真南のキプロスはヨーロッパという答えになった。それが何故なのかの説明は一切ないから、どこにでもある平凡な答えとなった。将来はともかく、インターネットはまだそこまで頭が良くはない。
 「確かに居ながらにして世界の情報が引き出せる。ビジネスとしての可能性はまだ分からないけど年輩の方には便利ですわね。地球上どこにでも連れていってくれる。はじめたら癖になりそうね。ただ、目には悪いけど、、、、」兼高さんのように根を詰めては、確かについつい目も疲れる。しかし、それだけ知的刺激に満ちた世界だということになるのでもあろう。
 「それにしても、情報がこんな風に世界中どこでも簡単に共有できるようになって、心痛むことも増えてきたわね。ベルリンの壁を破ったのも結局は情報でしたけど、つい最近旅行してきた中国でも、孝に厚い古き良き中国人が急速に様変わりしていますし、敬虔な宗教人であるあのインド人でさえも、親子の情が段々薄れつつある」と、情報時代のもたらすマイナス面にも心を痛める。アダルトものをはじめとする裏のインターネットをどうするかも確かに厄介な問題だ。
 「一度インターネットに登場するとその時受けたインタビューの内容が半永久的に残るということね。心してかからなければ、、、」デジタル革命がもたらすプラス面だけについつい目が動き勝ちだが、さりげなくネガティブな側面にもズバリ直球を投げ込むあたりやはりジャーナリストとしての感の鋭さなのだろう。



 30数年に及ぶ長寿番組だっただけに、終了後すでに6年が経つというのに写真や資料の整理がまだ残る。加えて、著作の執筆から講演依頼と忙しく東奔西走するが、仕事の9割がボランティアとしてかり出されるこの頃だ。紫綬褒章など受賞多数。各種団体の役員や審議役など多数の肩書きを持つ。
 そんな中で、約10年前から名誉館長をつとめる淡路島・あのころアイランド公園内の「兼高かおる旅の資料館」に世界の各地から持ち帰った民芸品を展示すると同時に、港町・横浜にある「横浜人形の家」では人形を通じた親善大使(館長)として、「兼高かおるの心」を繋いでいる。
 日本人ひとり一人がもっともっと思い出に残るいい旅をして欲しい−−そのためにもインターネットに「兼高かおるの旅の世界」が誕生する日を楽しみにしたい。

 「兼高さん、その後のインターネット体験は如何ですか?」


               (構成:高梨 洋一郎) 

戻るHOME